4.24夢みる小学校トークセッションin電氣館アーカイブ

 2022年4月24日、熊本Denkikanにて行われた遠藤熊本市教育長、WINGスクール校長 善さん、岩田とZOOM参戦のオオタヴィン監督によるトークセッションは超満員の大成功でした。アーカイブ映像は1週間限定公開でしたので、その一部始終を編集して原稿に書き起こしました。

岩田(熊本オルタナティブ教育協会理事長)
 まずきのくに子どもの村の歴史的意義について、ごく簡単にご紹介します。
 そもそもきのくに子どもの村はイギリスの教育者A.S.ニイルが1921年に設立したサマーヒルスクールがモデルとなっています。A,S,ニイルの教育思想は1960年代、カウンターカルチャー全盛期のアメリカに紹介され、フリースクール運動して、一大ムーブメントを巻き起こしました。このムーブメントは10年ほどで下火になる訳ですが、アメリカのオルタナティブ教育の思想基盤として、現在も影響を与え続けています。
 私の認識ではこの偉大なる教育者ニイルの精神を世界中でもっとも正当に継承しもっとも広く宣揚している人が学園長の堀真一郎氏です。これはある意味では本家本元のサマーヒルスクール以上だと認識しています。
 つぎに茂木さんが脳科学の視点から学習とは何かということをおっしゃいました。学習とは脳神経細胞の結合部シナプスの変化なんだ。この結論を否定できる人は誰もいないわけです。
 ゲームなんて遊びだから学習じゃないとか、マンガを読んでも学習にはならないとか、あの学校では遊んでばかりで、学習は大丈夫か?ということから、どこまでを学習というのか論争が見られます。学校はもちろん家庭の中でも葛藤がある訳です。そこに明快な答えを出しているのが、学習とはシナプスの変化であり、もっとも素晴らしいシナプスの変化が起きるのは、どういう時なのか、それは何かに熱中しているときなんだ。と断言しています。
 そして辻さんは、多くの日本の大学生とアメリカの大学生を比較して、日本の学生は問いを持っていないと言います。しかし私は日本の大学生に質問する力がないからだとは思いません。
 ここにご参加の皆さんは今、問いが生まれていますか?この映画を観て、このトークセッションに参加しても、もしかするとひとつも問いが生まれないかも知れません。仮にそうだとしても、その方の問う力が弱いからではなくて、こういう話題に感心がないからだと思います。人間って熱中すればするほど、これって、どうなっているんだろう?この先どうなるんだろう、もっと知りたい、誰かに聞きたい、次から次へと問いが止まらなくなりますよね。
 日本の学生に質問をする能力がないのでしょうか?この映画が問うているのは、授業に参加したいという目的観を喪失させるような教育システムにこそ、問題があるといことではないでしょうか。
 熊本にもきのくにや伊那小に負けないくらい、子どもを熱中させる学校があるのをご存じでしょうか?そのひとつがWINGスクールです。このフィルムを観ながら「そうだその通りだ」という善さんの心の声が聞こえてくるようでした。いかがでしょうか?

善さん(WINGスクール校長 田上善浩)
 (映画を観たのは)2回目でしたが泣いちゃいました。薬を飲んでふさがれているような子達が、自分に合った場に出会えれば水を得た魚のように開かれて、これからの時代を築き上げてくれるような子になっていく。ほんとすごいと思います。
 夢をかなえるということについて思うのは、これをスクリーンの向こうの遠い世界の話と思っちゃったら叶わない。これは私たちの世界、熊本で起きること、熊本に素敵な保育園があったりとか、ステキな食を提供される方がいたりとか、この熊本に、ものすごく豊かなムーブメントがあって、その一端として私も公立学校を退職して、WINGスクールというオルタナティブスクールを5年前に開校しました。けして公立学校がいやで出てきた訳ではありません。公立学校で自分がやっていた実践をもとに今のスクールをやっています。
 この映画に出てきた学校はすべて学校法人です。ということは文部科学省が認めているということです。だから文部科学省が認めている学校って、一般的な学校と子どもの村では、こんなに幅がある。いま熊本ではまだまだ一般的なタイプが多いかな。それをいま遠藤教育長のリーダーシップの下に全国トップクラスの取り組みが公立学校にどんどん来てます。WINGスクールは無認可のスクールとして、他のゼロスクールさんオルタナさんなど、たくさん出てきていて、熊本にすでに、この映画の中の世界のような学校が選べるようになってきています。
 WINGスクールにくる子って、いろんなタイプの子がいるんです。学校で活躍してた子もいれば、やっぱり塞がれてた子もいて、その子たちがさっきの映画の子みたいに「君、ほんとに学校行けてなかったの?」とか「君、特別支援学級だったの?」とか信じられない子がけっこういるんです。5月とか10月とかに見学に来られると、みんな元気いいと思っちゃうんですけど「あの子はWINGに来た時には、隅っこの角っこに挟まりこんで固まって動けなかったんですよ」とか「全然しゃべんなかったんです」とか「暴れまくってたんですよ」みたいな子が、めっちゃ笑顔で輝いてたりする訳ですよね。
 魚だったら水の中だし、鳥だったら飛びたいだろうし、合う合わないがある。レストランでも中華がいい人もいれば和食がいい人もいる、オーガニックじゃないとだめって人がいる。それと同じで、今もうすでに教育が選べる時代になってて、そこにマッチしたときに、公立では発達障害とか問題児とか言われていた子が、こっちではめっちゃ輝く訳ですよ。それマッチングだなぁと思います。こういう映画の中のようなスクールが熊本にもあるので、大人がおお膳立てして、ぜひ観に行かれるといいと思います。大人は理屈で考えるけど、子どもって合う合わないが体感で分かるんですよ。
 そんなスクールが熊本にできてます。ゼロスクールさんは校舎の隣にヤギ飼ってて畑もあって、ヤギの出産に子ども達が立ち会ってます。WINGスクールだったら、隣が清流の川なんで、バシャバシャ、この歳になってから川で一番泳いでます。関東関西、海外から移住して入校して来られる方もいらっしゃるんですけど、みなさんこの環境いいねとおっしゃいます。映画の中で観た世界は熊本では選べるし、スタートしてる。
 子ども達が豊かな幸せな人生歩むために、そして僕らの社会がその子たちの活躍によって、どんどん活気づくような、そんなムーブメントが起きています。民主主義社会なので、思想さえ共有できれば、学校法人の学校でさえ、こんな学校ができる時代です。それを僕らは自覚して、自分たちがやれるところで、保育園を、食を、そして小学校、中学校を、保護者の立場で教師の立場で、みんなでやれば、すごいことになると思ってます。それを改めて感じさせてくれたすごい映画だなと思いました。

岩田 
 西郷校長は「人間は夢のような環境の中にいるときに一番成長できる」とおっしゃってました。
南アルプス子どもの村の校長、かとちゃんは「学校は楽しいだけでいい」とおっしゃいました。そういう教育を実践されているのがWINGスクールさんということです。冒頭ご紹介しましたA.S.ニイルの言葉で「きのくに」のキャッチフレーズにもなっているのですが「まずは子どもをしあわせにしよう。すべてはそのあとに続く」というのがあります。まずは子どもの今を幸せにしようとした、そういう環境を創ろうとしたのがニイルなんです。
 ここに一冊の本があります。「みんなの今を幸せにする学校」という本です。遠藤教育長が書かれました。この本に書かれているようなことを実践されようとしている、教育委員会のトップである教育長がこういう本を書かれたということに私は感動した訳ですが、そういうことも含めて、語っていただきたいと思います。

遠藤(熊本市教育長)
 いろんな学校があっていいんじゃないかなって思うんですよね。大人も子どももいろんな人がいる訳で、例えば大人だったら、全員同じ会社に入ってくださいって言われたらいやですよね。 子どももこの学校ひとつで全員万人向けの学校っていうのはなくて、いろんな学校を選べるってことが大事なのかなと思ってます。
 私自身はどちらかというと、かなりインドア派なので、そんなにヤギと遊びたいとも思わないし、そこまで田んぼで泥だらけになって遊びたいとも思わないので、この学校しかなかったら、それはそれでどうかなとも思うんです。だけど、公立の学校があって、こういうところも選べてということで、例えば、今、不登校の子どもがすごく増えていますよね。私の仕事は公立の学校を、できるだけ色んな子どもに合ったものにするという仕事ですけど、それと別に、善さんのように自分で自分に合った学校をつくろうという人達もたくさんいていいし、公立でも私立でも世界的にも特徴のある学校、その中で自分に一番合ったところを選んでいけるように、今、なってきていると思うので、私たちも、もちろん全ての子ども達に合った学校を創りたいと思ってますけど、現実なかなかそういう訳にもいきません。なので両方必要なんだろうなと思います。公立学校ももっと柔軟になる必要があるし、学校制度全体ももっと柔軟なものになって、いろんな学校があり、一人ひとりに合った学校が選べる、そんな時代になっていくといいのかなと思います。
 本に書いたことで、ちょうど映画にも出てきましたけど「将来のために我慢する」そればっかりすると、子どもの頃、私たぶん親から一番たくさん言われた言葉は「我慢しなさい」です。けっこう食いしん坊だったんで「あれ食べたい、これ食べたい」って言って、我慢しなさいって、いつも言われてました。あと「片づけなさい」その二つをずっと言われて育ってきたんです。我慢することも大事なこともあると思いますけど「いま楽しむ」っていう楽しい幸せな中で過ごして、それが将来につながるっていうのが一番ベストだと思います。そういう学校づくりをしたいなって思っています。

オオタヴィン監督
 熊本の皆さん、こんなにたくさん来ていただきましてありがとうございます。熊本Denkikanという素敵なミニシアターで、こういう企画をしていただいて感謝申し上げます。

 この映画で3作目になりますが、ぼくの場合はまったく一人でつくってますから、企業や行政からの援助もまったくない状態で、毎回クラウドファンディングで、たくさんの方にご協力いただきて、映画をつくらせていただいてます。1本目は保育園の映画、2本目は有機農業の映画で、この2つの映画をつくったときに、例えば保育園でオーガニックの給食を出している、それから日本も有機農業の比率がものすごく低くて、もっと有機農業やっていくんだというときに、そんなこと言っても現実は無理だよというお話をずいぶんいただきました。これ、まさしく遠藤さんの本をよませていただいて中に書かれているんですが「社会に出たら大変だぞ」「それは理想で現実は難しいんだよ」って、ぼくも含めて大人はみんな言うじゃないですか。でもそういう社会をつくってきたのは、ぼく達大人だし、できないって最初に思ったら、もうできないんですよね。一人で映画つくるなんてムリムリって思ったら、映画1本もできないんですよ。でもやっぱりできていくわけですよ、みなさん今観ていただいたように。
 教育の考え方も大きく2つあって、今ある社会を全肯定して、そこに合った人間を育てていくっていう1つの考え方があると思うんですが、それとは別に、学校は理想を語っていく場なんだ、こんな風になったらいいよねっていう未来を、先生と子ども達と保護者がみんなで一緒につくっていく場で、例えそういう理想を持って社会に出て、少しぶつかってもいいんじゃないか、失敗してもいいんじゃないか、それでもやっぱり、もっとよりよい社会を創りたいよねっていう風に思うか、この2つって、教育の考え方がすごく違うんですよね。
 遠藤さんが書かれているように、民主主義ってことがすごく大事なんですけど、いま民主主義が世界的にも、あって当たり前のものじゃなくて、守っていかなきゃいけないものなんだ、放っておくとどんどん民主的じゃない方が、いまロシア観ていても中国観ててもそうなんですが、強い専制国家の方がいいんじゃないかっていう意見もかなりある訳ですよね。だから民主主義を守っていかなきゃならない、それはやっぱり学校からだと思うんですよね。そのためには、学校が民主的な場であってほしいし、その方が一人ひとりがみんな楽しいじゃないか、そういう中で自分も大事にされるけど、周りも大事にされていくというようなことが、今後進んでいくといいなと思ってます。
 ただ、この映画は、ここに出てきた3つの学校が最高にいいんだって言ってる訳わけじゃないんです。むしろ、もうちょっと教育先進国のように日本にも教育の幅が欲しい。さっき田上さんがおっしゃっていたように、いろんな子どもがいて、どの子にも、ある程度、合うような学校の多様性が増えていく、そういう議論の出発になるといいなと思って、つくらせていただいています。
 ですので、まさしく今日、映画館出たときから、現実の世界が始まっていると思うんですね。そういう中で少しでも子ども達が楽しくなればいいなって思っています。

 

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